マッチョなサム・アルトマンの右腕、グレッグ・ブロックマンのアパートの一室から始まったOpenAI。効果的利他主義(EA)とトランスフォーマーの登場が重なり、やがてChatGPT誕生とGoogleの「緊急事態宣言」へつながっていきます。
サム・アルトマンの人生を追うこのシリーズ第3回では、Stripeの元CTOグレッグ・ブロックマンやイリヤ・サツケヴァーをはじめとする初期メンバーがどのように集まり、サンフランシスコのアパートの一室からAGI研究をスタートさせていったのかをたどります。
同時に、Google DeepMindのアルファ碁がもたらした衝撃、アシロマ会議をきっかけにした効果的利他主義との接続、オープン・フィロソフィーからの助成金と引き換えに強化される「安全性」と「オープンネス」へのコミットメント。そして、GPTシリーズの誕生とスケーリング則の発見、イーロン・マスクとの決裂、Microsoftとの資本提携、前代未聞の「株式を持たない創業CEO」という構造が、どのようにChatGPTのリリースへとつながっていったのかを整理していきます。
本エピソードを通じて、「ChatGPT誕生」は単なる技術ブレイクスルーではなく、価値観・ガバナンス・資本構造が複雑に絡み合った結果だったことが見えてくるはずです。
目次
00:00 前回までのあらすじ
01:11 グレッグ・ブロックマン登場
07:25 初期メンバーでバスツアー
09:24 イリヤ・サツキヴァーの参加背景
10:26 初期のOpenAIはアパートの一室がオフィス
12:08 Google Deep Mindがアルファ碁を発表
19:24 効果的利他主義界隈の影響
24:20 All you need is Attention 論文による進化とGPTの誕生
28:00 サツキヴァーの慧眼
30:05 サム・アルトマンの特殊能力が生かされる時
31:15 イーロン・マスクとサム・アルトマンが犬猿の仲な理由
33:05 非営利組織で1億ドルの調達は無理ゲー
35:51 イーロン・マスク、ブチギレる
39:00 マイクロソフトとの接近
43:14 株式を保有しない創業CEO
48:44 2025年11月現在のOpenAIの組織構造
51:43 ポール・グレアム、ブチギレる
55:56 危険すぎて公開できないAI
57:26 ダリオ・アモデイ、ブチギレる
58:50 21世紀最大の発見?
1:03:58 ChatGPTのリリース、Googleの緊急事態宣言
エピソードの概要
今回のエピソードでは、次の5つの流れを中心にストーリーが展開します。
グレッグ・ブロックマンと「アパート発OpenAI」
Stripe元CTOであり、サムに見込まれたグレッグ・ブロックマンが、CFO/マネジメントよりも「コードを書きたい」という思いからStripeを離れ、サムと合流
自分でGPUマシンを組み立てて機械学習を独学するなど、AI研究者ではないバックグラウンドからOpenAIにコミットしていくプロセス
ヨシュア・ベンジオの助言をもとに、トップ研究者候補をリストアップし、ワイナリーバスツアーに招待してビジョンを語るという「採用バスツアー」を敢行
サンフランシスコの自分のアパートをオフィス代わりに開放し、ホワイトボードの調達からコップ洗いまで、AGI研究を支えるための「なんでも屋」として動き回るブロックマンの姿
DeepMind、アルファ碁、効果的利他主義がもたらした緊張感
Google DeepMindがアルファ碁を発表し、イ・セドルを破ったことで、世界に「AIは本当に人間を超え始めている」というショックが走る
もともとGoogle一極集中に強い危機感を持っていたイーロン・マスクにとって、DeepMindの快進撃は、OpenAIへの期待とプレッシャーを一気に高める出来事に
アシロマ会議をきっかけに、AIの長期的リスクを真剣に議論する場が生まれ、そこでサムが効果的利他主義(EA)界隈のキーパーソンたちと接点を持つ
OpenAIはオープン・フィロソフィーからの助成を受ける代わりに、コード公開や「人類全体の利益」を重視する方針を一段と強めていく
トランスフォーマーとGPTシリーズの誕生
若手研究者ラドフォードが、レビュー分析など小規模な言語モデルの研究を進め、「感情分類」などで成果を出し始める
Googleの論文「Attention Is All You Need」が発表され、イリヤ・サツケヴァーはこれが言語モデル研究を飛躍させると直感
テキストを一文字ずつではなく、どこに「注意」を向けるべきかを学習しながら並列計算で処理するトランスフォーマーのアイデアが、OpenAI内部に取り込まれていく
大量のデータと計算資源を前提とした大規模言語モデルへのシフトが決まり、GPT(Generative Pre-trained Transformer)シリーズの開発が本格化
GPT-1からスタートし、GPT-2、GPT-3とパラメータ数を桁違いに増やしていく中で、「スケーリング則」と呼ばれる、モデルの規模と性能の関係性が見えてくる
イーロン離脱、Microsoft提携、前代未聞の組織構造
非営利のまま1億ドル規模の資金調達を目指すも、現実的には極めてハードルが高く、OpenAI内部で「営利構造への転換」をめぐる議論が始まる
イーロン・マスクは、OpenAIの支配権(株の過半数、取締役会コントロール、CEOポジション)を求めるが、ブロックマンやサツケヴァーは「実質的なAGI支配」への懸念から拒否
メールでのやりとりをきっかけにマスクが激怒し、資金提供から手を引く一方、アンドレイ・カーパシーをTeslaに引き抜くなど、関係性は決定的に悪化
サムはMicrosoftのサティア・ナデラと再会し、AzureのGPUリソースを含めた10億ドル規模の提携をまとめ上げる
非営利の上に営利子会社を載せる「二階建て構造」と、投資家のリターンに上限を設ける「利益上限付き構造」を設計
取締役会の過半数は株式を持たず、サム自身も株を持たないCEOとしてガバナンス上の正当性を確保するという、極めて特殊な体制が形作られていく
GPT-2ショックからChatGPT、そしてGoogleの緊急事態宣言へ
GPT-2はあまりに高性能だったがゆえに「悪用リスクが高い」と判断され、OpenAIはフルモデルの公開を見送る決定を下す
これは「オープン」を掲げてきた組織として大きな矛盾を内包し、ダリオ・アモデイら安全性重視派との間で緊張が高まる
やがてアモデイはAnthropicを創業し、OpenAIから離脱。OpenAI内部は、安全性・公益を重視するEA的な価値観と、スピードとスケールを重視するサム陣営との対立が鮮明になっていく
一方で、ブロックマンとミラ・ムラティらはGPT-3 APIを立ち上げ、企業向けに営業して回るなど、収益化の道筋を作り始める
GPT-3.5をベースにしたChatGPTが2022年11月に公開されると、わずか2カ月で1億ユーザーに達し、「史上最速で成長したコンシューマー向けアプリ」と評される存在に
このインパクトを受けて、Googleは社内的に「緊急事態宣言」を出し、Bard(現Gemini)を含むLLM戦略の見直しを迫られることになる
Takeaways
グレッグ・ブロックマンは「元Stripe CTO」という肩書以上に、アパートオフィスの提供から研究者リクルートまで、AGI研究を支えるハブとして機能していた
初期OpenAIは、トップ研究者と元起業家が入り混じる「超少数精鋭スタートアップ」的な空気感で、アパートの一室から始まっている
Google DeepMindのアルファ碁が、イーロン・マスクの危機感を決定的なものにし、OpenAIに対する期待とプレッシャーを一気に高めた
効果的利他主義(EA)との接続とオープン・フィロソフィーからの助成は、OpenAIに「安全性」「オープンネス」「人類全体の利益」という強い制約条件を与えた一方、後の軋轢の火種にもなっている
トランスフォーマーと「Attention Is All You Need」の登場が、GPTシリーズ誕生の決定的な転機となり、「スケーリングすればするほど賢くなる」という21世紀級の発見へとつながった
非営利の看板を掲げたまま、莫大な計算資源を必要とする研究を続けることは難しく、イーロン・マスクとの決裂とMicrosoftとの提携、二階建てのガバナンス構造につながっていった
サム・アルトマンは株式を持たないにもかかわらず、資金調達と組織設計のスキルによって、実質的にOpenAIをドライブするポジションを手に入れている
GPT-2「危険すぎて公開できない」問題、ダリオ・アモデイの離脱、GPT-3 APIによる収益化、そしてChatGPTの爆発的普及は、「安全性 vs スケール」の緊張が常にOpenAIの裏側に存在していることを示している
参考文献
このシリーズは、以下の書籍の内容をもとに構成・考察を行っています。
『サム・アルトマン:「生成AI」で世界を手にした起業家の野望』
ニューズピックス
キーチ・ヘイギー (著), 櫻井祐子 (翻訳)
https://amzn.to/4oIL1JV
次回予告:サム・アルトマン取締役解任劇と、その裏側
次回のエピソードでは、今回のラストで触れた「亀裂」が一気に噴き出す、サム・アルトマン取締役解任劇の裏側に踏み込んでいきます。
なぜ、これだけ成功している最中に、取締役会はサム・アルトマンの解任に踏み切ったのか
効果的利他主義を軸とする安全性重視派と、スピードとスケールを重視するサム陣営との対立構造は、どのように先鋭化していったのか
「株式を持たないCEO」という異例のガバナンス設計は、この解任劇にどう影響したのか
そして、騒動後のOpenAIと、AnthropicやGoogleなど競合とのパワーバランスはどう変化していったのか
サム・アルトマンという人物の光と影がもっとも濃く現れるフェーズを、次回じっくりひもといていきます。では、また👋
Lawrence










