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倒産寸前のNVIDIAを救った男、ジェンスン・フアンの原点|NVIDIA編 第1話
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倒産寸前のNVIDIAを救った男、ジェンスン・フアンの原点|NVIDIA編 第1話

矯正施設、デニーズの皿洗い、半導体業界の闘争——世界一の時価総額企業をつくったCEOの「逆境をいくつも乗り越える物語

NVIDIAの哲学とジェンスン・フアン編プレイリスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PL0B4zl1BdYzEIwuyi_3K3lYaoQm0ST5am

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サム・アルトマン編に続く新シリーズでは、いま世界一の時価総額を誇るNVIDIA(エヌビディア)と、その創業者CEOジェンスン・フアンを追いかけていきます。

ニュースでは「AIブームの勝者」として語られることが多いNVIDIAですが、その裏側には、10歳で“矯正施設”に入れられ、トイレ掃除といじめに耐えた幼少期、デニーズの皿洗いと接客で鍛えられた「汚れ仕事を軽んじない」仕事観、そして半導体業界の泥臭い政治の中で鍛えられたストリートファイター的なキャリアが存在します。

本エピソードでは、NVIDIAの技術ではなく「組織設計と文化」に焦点を当てた一冊『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』を手がかりに、「決定的な特徴は技術力ではない」と断言されるこの企業と、その中心にいるジェンスン・フアンの人格形成、キャリアの起点、そしてNVIDIA創業までを物語としてたどっていきます。

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目次

00:00 オープニング
02:19 なぜ、NVIDIAなのか?
05:36 幼少期と矯正施設
15:24 最強のデニーズバイト、シゴデキすぎる新卒時代
23:20 プリエムとマラコウスキー
32:47 NVIDIA創業直前の雰囲気
41:39 NVIDIA誕生秘話、名前の由来
43:37 今回の学び
45:50 次回予告


エピソードの概要

今回のエピソードでは、次の5つの観点から「なぜ逆境から世界一の企業が生まれたのか?」を整理していきます。

1. なぜいまNVIDIAとジェンスン・フアンなのか?

  • かつてAppleが占めていた「世界一の時価総額」の座に、現在はNVIDIAが就いているという事実

  • それにもかかわらず、「NVIDIAとはどんな会社か」「ジェンスン・フアンとはどんな人生を歩んできたのか?」を語れる人は驚くほど少ないという違和感

  • 参考文献『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』が冒頭で「NVIDIAの決定的な特徴は技術力ではない」と断言していることから見えてくる、組織設計・文化に焦点を当てる意義

  • テックチルラジオのコンセプト「テクノロジーの裏側には常に人がいる」に沿って、技術ではなく“人と組織”の視点からNVIDIAを紐解いていくシリーズの位置づけ

ここでNVIDIA編シーズンの全体像を共有し、「技術の会社」としてのNVIDIA像をいったん疑い、組織・文化・リーダーシップに光を当てていく導入になっています。

2. 幼少期と「矯正施設」がつくったストリートファイター精神

  • 台南出身のエンジニアの父と、小学校教師の母を持つ、いわば“教育エリート家庭”に生まれたジェンスン

  • 治安・教育環境を懸念した両親が、「より良い教育」のつもりでアメリカの寄宿学校に預けたところ、そこは実際には問題児を集めた“矯正施設”だったという事実

  • 10歳そこそこで、年上の不良に囲まれ、差別・いじめ・過酷なトイレ掃除を強いられる日々

  • ルームメイトは全身タトゥーの18歳、“怖さの象徴”のような存在だったが、ジェンスンは彼に読み書きを教える代わりに、ウエイトリフティングを習い、「筋トレですべてを解決する」術を身につけていく

  • 「自分から喧嘩は売らないが、売られた喧嘩は必ず買う」「私に喧嘩を売るやつはよく考えた方がいい」と語るようになる、ストリートファイター的なメンタリティの起源

普通ならトラウマで人生がねじ曲がってもおかしくない環境を、交渉力と身体性でねじ伏せていく。この経験が、「タフさ」「ストリート感覚」「人を怖がらない胆力」といった、後のNVIDIA経営に直結する人格の基礎を作っています。

3. デニーズの皿洗いと「汚れ仕事を軽んじない」仕事観

  • 高校・大学時代、夏休みにデニーズでアルバイトをするジェンスン

  • 最初に任されたのは、またしてもトイレ掃除と皿洗いという“汚れ仕事”だが、矯正施設での経験を活かし、ここでも徹底的にやり切る

  • のちにウェイターへと昇格し、「自分はデニーズ史上最高のサラリーライン・ウェイターだった」と語るほど、顧客対応と店のオペレーションをやり込み、ビジネスパーソンとしての基礎をここで身に付けていく

  • 一方で、時間がかかるシェイクだけはどうしても作りたくなくて、注文されたら「本当にそれでよろしいですか?コーラにしませんか?」と顧客に“提案”していたという、交渉上手なエピソード

  • 「期待値がとても高い人は、忍耐力がとても低い」「成功にとって大事なのは知性ではなく忍耐力だ」「偉大さは知性からではなく人格から生まれる」といった言葉から垣間見える、彼の仕事観と人格観

ここで描かれているのは、「自分のレベルより下だと思える仕事ほど、手を抜かずにやり切る」「汚れ仕事を軽んじない」姿勢と、それが長期的にはキャリアの信頼残高に直結するという感覚です。技術よりも人格と忍耐力を重視するNVIDIA文化の源流が、このあたりに見えてきます。

4. GXグラフィックスエンジンが示した「技術 × 体験」の突破力

  • 大学卒業後、AMDでチップ設計に携わり、その後LSI Logicに転職して、顧客と共同開発するグラフィックスチップのプロジェクトを担当

  • そこで出会うのが、のちのNVIDIA共同創業者となる、チップアーキテクチャの天才カーティス・プリエムと、オペレーションのプロであるクリス・マラコウスキー

  • 彼らと共に取り組んだ「秘密のグラフィックスチーム」が生み出したのが、業界を震撼させたGXグラフィックスエンジン

  • 単に性能の高いチップを作るだけではなく、プリエムが趣味で作ったフライトシミュレーションゲーム「アビエーター」をデモとして見せることで、「この性能が消費者にとってどう価値になるのか」を体験として理解させ、大ヒットさせていく

  • 激しい口喧嘩を繰り返すプリエムとマラコウスキーを見て、ジェンスンが「これは刀と砥石がぶつかり合って磨かれているだけだ。最良のアイデアは白熱した議論からしか生まれない」と解釈し、対立と議論を恐れないチーム運営の原型を学んでいく

ここで強調されるのは、「技術性能 × 体験設計 × 議論を恐れない文化」というNVIDIAらしさの原点です。技術そのものより、「それをどう見せ、どう売るか」「どれだけ議論を通じて磨けるか」を重視する姿勢が見て取れます。

5. デニーズのボックス席で生まれたNVIDIA

  • GXが成功する一方、サン・マイクロシステムズは次第に官僚的な大企業になり、優秀なエンジニアほど不満を抱える組織になっていく

  • 半導体業界では、コンサルやライセンス提供を通じて企業にアドバイスをしても、知恵だけ盗まれて終わる可能性が高いことを痛感し、「技術を売るのではなく、自分たちで事業をやるべきだ」という発想に至るプリエムとマラコウスキー

  • 「あのLSIにいた優秀なやつ——ジェンスン・フアンに相談しよう」となり、デニーズのボックス席で3人が集まり、コーヒー一杯で何時間もビジネスプランを議論する日々が始まる

  • ハードウェアの設計プロセスの高度化と、Windows 3.1の登場によるGUI時代の到来を踏まえ、「これから伸びるのはワークステーションではなくPC市場だ」「ビデオゲーム世代に向けて、グラフィックスチップで勝負しよう」という方向性が定まっていく

  • 社名案「Primal Graphics」から検討が始まり、最終的にラテン語で“羨望”を意味するInvidiaをもとに「NVIDIA」という社名に落ち着くプロセス

  • 創業資本は、ジェンスンが弁護士に渡した200ドルを起点に、後から2人分も含めて合計600ドル。この小さな資本から、世界一の企業がスタートしたという象徴的なエピソード

エピソード終盤では、「逆境の質が人格を決める」「汚れ仕事を軽んじない」「人格が長期のビジネススキルに転化していく」という学びを整理しつつ、次回以降のNVIDIA倒産寸前期と大逆転の伏線が張られます。


Takeaways

  • NVIDIAは「世界最強のGPUメーカー」である前に、「技術力ではなく組織設計と文化が決定的な特徴」と評される、異質な大企業である

  • ジェンスン・フアンの人格は、10歳で放り込まれたいわば“矯正施設”でのいじめ・トイレ掃除・筋トレによって形成されたストリートファイター精神に大きく依存している

  • デニーズでの皿洗いとウェイター経験から、「汚れ仕事を軽んじない」「忍耐力こそが成功の条件」「偉大さは知性ではなく人格から生まれる」という価値観を体得している

  • AMDやLSI Logicでのチップ設計、3 Micro SystemsでのGXグラフィックスエンジン開発を通じて、「技術性能 × 体験設計 × 議論を恐れない文化」の原型が形づくられた

  • 3人の共同創業者は、「技術をライセンスするよりも、自分たちでリスクを取って事業をやるべき」という判断のもと、デニーズのボックス席からNVIDIAを立ち上げた

  • 創業資本は600ドルと小さかったが、そこに乗っていたのは「逆境を利用するメンタル」「汚れ仕事をやり切る姿勢」「人格に基づく長期的な信頼」という、後の巨大企業の土台となる無形資産だった

  • NVIDIAのストーリーは、「IQの高さ」ではなく「どんな環境でも信用を積み上げ、戦い抜く人格」が、最終的に文明レベルのインパクトを持つ企業をつくることを示している


参考文献

このシリーズは、以下の書籍の内容をもとに構成・考察を行っています。

『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』
テイ・キム (著), 千葉 敏生 (翻訳)
https://amzn.to/44MWMHd


次回予告:預金残高ギリギリからの大逆転、NVIDIAはなぜ生き残れたのか

次回のエピソードでは、法人化したばかりのNVIDIAが、セコイア・キャピタルなどからの資金調達を経て、SEGAとの提携による「世界を変えるグラフィックスチップ」に挑むものの、失敗続きで銀行残高が尽きかける、もっとも苦しい時代に入っていきます。

・セコイアの“怖すぎる”パートナー・ドンとの資金調達ドラマ
・SEGAとの共同プロジェクトと、その裏で続く技術的・ビジネス的失敗
・倒産寸前のNVIDIAが選んだ、常識外れの「狂気の一手」とは何だったのか
・そこから現在のGPGPU・AI企業としてのポジションにつながっていく分岐点

「逆境の質」がさらに一段階ギアを上げるNVIDIAのサバイバルを、深堀りします。

ぜひ、チャンネル登録よろしくお願いします。

では、また👋

NVIDIAの哲学とジェンスン・フアン編プレイリスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PL0B4zl1BdYzEIwuyi_3K3lYaoQm0ST5am

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