Lawrence's Newsletter
テックチルラジオ | テクノロジーで世界を変える人たちの物語
預金残高ギリギリ。NVIDIAはどう逆境から生き延びたのか|NVIDIA編 第2話
0:00
-43:36

預金残高ギリギリ。NVIDIAはどう逆境から生き延びたのか|NVIDIA編 第2話

ファミレスで創業されたNVIDIA。彼らが最初に開発したチップは苦難の迎えることになる… 創業初期のギリギリからの一発大逆転!

NVIDIAの哲学とジェンスン・フアン編プレイリスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PL0B4zl1BdYzEIwuyi_3K3lYaoQm0ST5am

Subscribe YouTube

倒産寸前まで追い込まれたスタートアップが、たった一つのプロダクトで市場シェア20%を奪い返す――NVIDIAの創業初期を扱う本エピソードでは、最初の製品「NV1」の大失敗から、奇跡の大逆転までを時系列で追いかけます。

セコイア・キャピタルとの出会い、人脈に支えられた資金調達、技術的には美しいが市場には全く刺さらなかったNV1、Doomが動かないことで一気に返却されるPCとチップ……。

「ポジショニングが言語化できていない努力は、ほとんどが無駄になる」というジェンスンの反省からのプロセスを整理していきます。

テックチルラジオは毎週日曜日 18:00更新⭐️🌃


目次

00:00 前回までのあらすじ
00:50 最初の課題、資金調達
03:02 マフィアみたいなドン・ヴァレンタイン
06:54 プリエムの決断、最初のチップNV1
14:50 展示会でのハプニングとセガとの出会い
18:42 最初の挫折
27:49 失敗からの逆襲が始まる
33:17 冷蔵庫みたいなエミュレータで時間を買う
38:42 ジェンスンが食堂でしたこと
40:33 今回の学び
42:26 次回予告


エピソードの概要

今回のエピソードでは、次の4つの流れで「倒産寸前からの大逆転」を分解していきます。

1. 「人脈がすべて」の創業期資金調達と、セコイア・キャピタルとの出会い

  • 収益ゼロ・実績ゼロのNVIDIAにとって、最初の難関はシリーズAの資金調達

  • 創業者ジェンスンが以前勤めていたLSI Logicの創業者ウィルフレッド・コリガンが、「席は残しておくから」と言いつつも、自らセコイア・キャピタル創業者ドン・バレンタインを紹介

  • ドンとの最初のミーティングは、技術デモを嫌う彼のスタイルと真逆のプレゼンをしてしまい、ほぼ「公開処刑」に近い空気で終わる

  • それでも最終的にはコリガンの後押しもあり、「もし私の金を無駄にしたら命はないと思え」というマフィアじみた一言とともに、シリーズAで約200万ドルの投資を勝ち取る

ここで強調されるのは、「プロダクトより先に、人と人の信頼・人脈が動く」というスタートアップ資金調達のリアルです。

2. NV1:技術的には美しいが、ユーザー価値が欠落した「失敗作」

  • 初の製品となるグラフィックスチップ「NV1」では、当時高価だったメモリコストを抑えるため、従来の三角ポリゴンではなく四角ポリゴンで描画するという革新的アーキテクチャを採用

  • 少ない計算量で高画質を実現できる「技術としては美しい設計」だったが、代償として既存ゲームの多くがそのままでは動かないという致命的な互換性問題を抱える

  • 当時の市場は「グラフィックスの純粋な性能の高さ」よりも、「人気タイトルがちゃんと動くかどうか」を重視

  • Doomをはじめとするヒットゲームの多くがVGA規格前提で作られていた中、NV1はVGAを十分にサポートしておらず、「Doomが動かないPCなんていらない」と大量返品を招く

  • Sega Saturn向けの共同開発や独自の高音質オーディオ仕様など、「盛りすぎた機能」がかえって互換性を損ない、市場から拒絶される結果に

「技術的に正しい」ことと「顧客にとって価値がある」ことは全く別、という残酷な事実が露わになります。

3. 地獄の返却ラッシュ、ポジショニングとの出会い、そしてリストラ

  • クリスマスシーズンに、NV1搭載PCが大量に返却され、約25万個のチップが在庫として戻ってくる事態に

  • SEGAとの契約に「NV2のプロトタイプを完成させれば100万ドル支払う」という条項を仕込んでいたことが、かろうじてキャッシュフローの命綱となり、NVIDIAはギリギリで倒産を回避

  • とはいえ、100人規模まで膨らんでいた組織は約40人まで大幅リストラ。創業からわずか数年で「ほぼ終わりかけの会社」になる

  • ジェンスンは、発売前に他社の元CEOから投げかけられた「NV1の製品ポジションは何か?」という問いを軽視したことを痛烈に後悔

  • ここからマーケティングの古典『ポジショニング戦略(Positioning)』を読み込み、「顧客の頭の中で、自分たちはどう位置づけられるのか」という視点を徹底的に学んでいく

「機能の多さ」ではなく「シンプルで強い約束」をつくることの重要性が、NV1の失敗からの最大の学びとして語られます。

4. 3dfxの登場、RIVA 128の開発、そしてギリギリの大逆転

  • NV1/NV2の延長線上では勝てないと判断し、次世代チップは「NV3」ではなく「RIVA 128」として新ブランドで再出発

  • 同時期に、映画『ジュラシック・パーク』の恐竜CGで知られるSilicon Graphicsの出身者が立ち上げた3dfxが登場し、「プロ用クオリティのCGを家庭用PCに」という極めてわかりやすいポジショニングで市場を席巻し始める

  • NVIDIA側は主力エンジニアを3dfxに引き抜かれそうになりながらも、キーパーソンの引き止めに成功し、「まずはRIVA 128を完成させてから辞めるか考える」という状態に持ち込む

  • 銀行残高は約300万ドル。9カ月持つかどうか、という状況にもかかわらず、そのうち100万ドルをつぎ込んで「冷蔵庫のような巨大エミュレータ」を購入し、RIVA 128の検証を一気に加速

  • バグレポート機能すら不十分なエミュレータを使い、週末を丸ごとベンチマークに費やすような「時間を買うための狂った賭け」を敢行

  • その結果、VGA互換をきちんと備え、Doomも含めた人気タイトルが問題なく動作し、かつ3dfxを上回る性能を持つRIVA 128が完成

  • 展示会でのベンチマークでは、3dfxの関係者が「NVIDIAをあのとき倒しておかなかったのが悔やまれる」とまで語るほどの差を見せつける

RIVA 128のリリース直後、STB Systemsから3万台分の大口注文が入り、NVIDIAは一気に黒字化。ジェンスンが社員食堂で「これは我が社の銀行残高だ」とギリギリの残高を読み上げた後、「そしてこれが、STBからの3万台の注文だ」と二枚目の紙を読み上げ、会場が歓声に包まれるシーンは、まさにV字回復の象徴的な場面として描かれます。


Takeaways

  • 創業初期の資金調達では、ビジネスモデルの完成度以上に、「誰が推薦するのか」「誰とつながっているのか」という人脈要素が決定的な影響を持つ

  • NV1は、メモリコストという当初の前提条件が崩れたことで、技術的な優位性がそのまま市場価値につながらない典型例となった

  • 「Doomが動かないPCはいらない」というシンプルなユーザーの判断基準を読み違えたことで、いくら高性能でも「一番大事なユースケース」を満たせなければ市場に拒否されることが証明された

  • 製品ポジショニングを言語化できていない状態で機能を盛り続けると、開発者の努力の大半は無駄になるどころか、互換性を損なう方向に作用しうる

  • 倒産までの残り時間が限られる中で、「時間を買うために狂った賭けができるか」が、スタートアップの生死を分ける局面がある

  • RIVA 128の成功は、「技術的な美しさ」ではなく、「ユーザーが求める体験(人気ゲームがストレスなく動く)」を起点に設計し直した結果として生まれている

  • この一連の失敗と逆転を通じて、NVIDIAは「ポジショニングにこだわる」「時間に対してリスクを取る」という企業文化を確立していく


参考文献

このシリーズは、以下の書籍の内容をもとに構成・考察を行っています。

『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』
テイ・キム (著), 千葉 敏生 (翻訳)
https://amzn.to/44MWMHd


次回予告:GPUとCUDAで「唯一無二のNVIDIA」が立ち上がる

次回のエピソードでは、今回のRIVA 128によるV字回復を土台に、NVIDIAが「ただのグラフィックスチップメーカー」から、「GPUとCUDAを武器にした唯一無二のプラットフォーム企業」へと変貌していくプロセスを追います。

・GPUという概念がどのように生まれ、なぜNVIDIAがそれを主導できたのか
・グラフィックス用途を超え、汎用計算へ広がっていく中で、CUDAというソフトウェアレイヤーが持った戦略的意味
・現在のAIブームの基盤となる「GPU+ソフトウェア」の組み合わせが、どのような意思決定の積み重ねから生まれたのか

倒産寸前からの一発大逆転を経て、「世界一の時価総額企業」へ向かっていくNVIDIAの次のフェーズを、引き続き深掘りしていきます。

チャンネル登録よろしくお願いします。

では、また👋

NVIDIAの哲学とジェンスン・フアン編プレイリスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PL0B4zl1BdYzEIwuyi_3K3lYaoQm0ST5am

Subscribe YouTube

Discussion about this episode

User's avatar

Ready for more?