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今回は、オンライン決済のStripeの現状を調査しました。
なぜ、このタイミングでStripeなのか?
Stripeは、OpenAIのChatGPTでも決済に利用されており、現在の生成AIブームで立ち上げられる多くのサービスがStripeを利用しているといいます。
そこで、上のポッドキャストでも紹介した年次レポートをより深堀りし、彼らが現在どのくらいの規模となっているのか、将来的なIPOの可能性はどのような進捗となっているのか、について調べてみました。
インターネット上のソフトウェアサービスに対する決済は、今後も増加していくでしょう。そうなれば、Stripeはおそらく強力な決済の巨人となる可能性は高いと考えています。
Elad GilがStripeをオンライン決済のインデックス企業(業界の市場拡大とともに収益を伸ばす企業)と評価したように、今後の動向は注目に値すると思います。
生成AIブームを宣言したStripeの現状、IPOに向けた進捗
創業者の背景
Stripeは、2010年にアイルランド出身の兄弟、パトリック・コリソンとジョン・コリソンによって設立されました。
兄弟は、以前「Auctomatic」という会社を立ち上げ(eBayオークションの自動化サービス)、その際にオンライン決済の実装が非常に煩雑であることに直面したそうです。
これに対する不満から、「もっとシンプルに、開発者が直感的に使える決済APIを作りたい」という思いから、Stripeの創業に至ったようです。
彼らのミッションは「インターネットのGDPを増やす」ことであり、Stripeはそのビジョンのもと、スタートアップから大企業まで幅広く支持され、今日では世界中で利用される主要な決済プラットフォームへと成長しています。
参考: wiki
Stripeの現状
Stripeは2024年に取扱高(決済処理額)$1.4兆ドルに達し、前年から38%という順調な成長を遂げています。
2023年には初めて年間取扱高が$1兆ドルを超えており(2022年比25%増)、2024年にはその規模をさらに拡大した格好です。
この$1.4兆ドルという決済額は世界GDPの約1.3%に相当する規模で、インターネット経済におけるStripeの存在感が極めて大きいことをなんとなくイメージできると思います。
Stripeは、得られた営業利益の大部分を研究開発(R&D)に再投資する方針をとっており、過去6年間にわたり競合他社より高い割合でR&D投資を続けているといいます。
例えば投資の成果の一つとしてサブスクリプション課金向けのStripe Billing事業が挙げられ、2024年時点で同製品は年間5億ドル超の収益ランレートに到達し、利用企業数も30万社以上に上るそうです。
Stripeは大規模な決済処理高と高成長率を実現すると同時に、黒字化による財務の安定性と積極的な再投資によって事業規模を拡大してきたといえます。
参考:Stripe's total payment volume reaches $1.4T, fueled by long-standing investments in AI
2023年の米国eコマース市場成長率は約7.6%でしたが、Stripeを利用するビジネスの売上成長率はそれを大きく上回りS&P500企業平均の7倍に達したとも報告されています。
また、StripeはFortune 100企業の半数やForbes選出のクラウド企業100社の80%を顧客に持つなど、大企業からスタートアップまで幅広いユーザー基盤を築いてます。競合としては、従来からのオンライン決済大手(PayPalなど)やヨーロッパ発の決済プロバイダ(Adyenなど)が存在しますが、Stripeは開発者フレンドリーなAPIや充実したサービス群で差別化し、市場シェアを着実に拡大しているようです。
技術面での協業として特筆すべきはNVIDIAとの提携強化です。2024年10月、StripeはNVIDIAと協力し、自社サービスにおけるAIによる性能改善と同時に、開発者や企業がStripe上でNVIDIAのクラウドAIサービスを事前購入できる仕組みを開始すると発表しました。
Stripeは長年NVIDIAのGPUプラットフォームを機械学習モデル訓練に活用しており、今回の提携深化により最先端AI技術へのアクセス拡大と決済インフラの融合を図っています。
参考: Stripe、NVIDIA との協業を深化。Stripe の AI を活用した機能の強化と、NVIDIA の AI プラットフォームへのグローバルなアクセス拡大を目指す
現在は、AIや機械学習を積極的に組み込んで、不正取引の検知やセキュリティに積極的に投資しているようです。
Stripeを導入するだけで収益が20%ほど増加しレンタカー事業のHertzなどは顕著な例だと思います。売上はStripeを導入しただけで10%ほど改善したことも報告されています。
このようにAIを用いたコンバージョン率向上策はStripe利用企業全体の収益性を底上げし、結果的にStripe自身の手数料収入拡大にもつながる好循環を生んでると考えられます。
AIエコノミーの到来
生成AIブームは、新たなスタートアップの創出と既存企業のビジネスモデル変革を促し、決済市場にも間接的な影響を与えています。ChatGPTに代表される生成AI技術の普及に伴い、AIをサービスに組み込んだSaaS企業やAIプロダクト企業が続々と誕生し、それらの多くがオンラインでグローバル顧客にサービスを販売しています。
Stripeはこうした新興AI企業の主要な決済インフラとして位置付けられており、Forbes誌が選ぶ有望AI企業50社(Forbes AI 50)のうち実に78%がStripeを利用しているそうです。
実際、StripeのデータによればトップAIスタートアップ企業はこれまでにない速さで収益を伸ばしており、従来型のソフトウェア企業に比べ年次経常収益500万ドルに到達するまでの期間が13か月短縮されているといいます。

先日、このニュースレターでも紹介したAIコードエディタのCursorもそのひとつで、たった2年足らずで1億ドルのARRを達成しました。
また、AIエージェントの開発が活発になるであろう時期を見越した製品として、Stripeはこの潮流を捉え、開発者がAIエージェントに決済機能を組み込むための専用ツールキットを提供しています。2023年にはこの開発者向けAIエージェント用ツールが週あたり数千回ダウンロードされ、Stripe上で700以上のエージェント系スタートアップが立ち上がったと報告されています。
例えばElevenLabsという音声AI企業はStripeのツールを使い、音声エージェントが自動でユーザーのサブスクリプション管理や返金処理を行える機能を実現したそうです。
また、自律的なペイメントAIエージェントのPaymanでは、ユーザーの指示に応じてエージェントがStripe経由で支払い・送金を行う実験的なサービスも登場しているようです。
このように生成AIが「代理で決済を実行する」新しい消費パターンを生み出し始めており、Stripeはそのインフラをいち早く整えることで今後の成長機会を拡大しています。生成AIの進化によりオンライン購買のハードルが下がれば取引件数・取引額はさらに増加すると見られ、Stripeにとってはインターネット経済拡大というミッションを追求する上で追い風となるでしょう。
IPOに向けた進捗
Stripeの株式公開(IPO)に関しては、ここ数年にわたり市場の注目を集めてきましたが、2024年から2025年初頭にかけても慎重な姿勢が続いているようです。
Stripe経営陣は「いずれ適切な時期に」IPOを検討するとしつつも、「現在は急いでいない」と2024年3月のインタビューで明言しており、特に黒字化した企業は外部資本に依存しなくとも選択肢が増えるとも述べています。
2024年2月には既存社員・OB向けに約10億ドル規模の自社株買い取り(テンダーオファー)を実施し、同社評価額は650億ドルと算定されました。さらに、業績好調を受けて1年後の2025年2月にも追加の従業員持株買い取りを行い、この際の推定評価額は915億ドルと直前から大幅に跳ね上がりました。
ちなみに、915億ドルという社内評価額は、パンデミック期に記録したピーク評価額950億ドル(2021年)に迫る水準で、Stripeの企業価値が再び上昇基調にあることを示してます。
一方で、相次ぐ自社株の非公開売却により社員への報奨と株式流動性確保を行ったことで、当面はIPOを先送りしつつ事業成長に専念する戦略がうかがえます。以上より、2024年末から2025年前半に即IPOという可能性は低下しており、Stripeは着実な業績拡大と適切なタイミングでの公開を模索している段階と言えます。
まとめ
2023年に年間取扱高が初めて1兆ドルを超え、翌2024年には1.4兆ドルに達して前年比38%の成長を実現。R&D投資を重視し、NVIDIAとの提携でAIを活用した機能強化や、新興AI企業向けの決済インフラ提供を進めています。
Forbes AI 50の78%がStripeを利用し、AIエージェント開発支援ツールも提供中。生成AIの普及でオンライン購買が増えれば、さらなる取引拡大が見込まれます。開発者フレンドリーなAPIや柔軟なサービス構成が評価され、スタートアップから大企業まで世界的に導入が拡大しています。
IPOに関しては数年来注目されてきましたが、Stripe経営陣は当面は急がず、適切な時期を慎重に見極める姿勢を示しています。2024年と2025年に行われた従業員向け株式買い取りでは評価額が650億ドルから915億ドルへ急伸し、パンデミック期のピークに迫る水準を回復。既に黒字化を達成しており、外部資本への依存度が低いため、IPOを先延ばししつつ事業拡大に専念できる余地が大きいようです。
今回は以上です。では、また👋