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「2023年は生成AI元年」と言われたが、実は2025年こそが本当の分岐点になりそう。
SaaSとWeb3の両領域で進むAIエージェントの実用化が、その理由だと感じている。
チャットボットを超え、“自律行動”をこなすAIが数年先にどんなインパクトをもたらすか。今回は最新事例を通じて考えてみたい。
2024年11月からこれまで、AIエージェントが来るという話を繰り返してきた。まとめると次のような内容。
汎用的なAGIが2027年までに登場すると予想するOpenAIの元エンジニアの見解。AIエージェントがエンタープライズ領域(営業やセキュリティテストなど)で産業革命的な変化を起こしうると予想
これまでのSoftware-as-a-Service型SaaSではなく、ソフトウェアによる労働力をサービスとして提供し、成果報酬を得る「Service-as-a-Software」モデルの到来を予見
ただし、Service-as-a-Softwareが本格化するのは1〜3年程度先と予想。AIエージェントの品質がすべてのサービス産業を飲み込む段階にはまだ至っていない、という見立て
詳しくは以下の記事にて👇️
ところが、AIエージェントの進化は思ったより早い。
2025年となった現在、強力になってきたことを肌で感じている。
以前は“マイクロSaaSがやってくる”と主張していたが、AIエージェントという大きな波がマイクロSaaSセクターにも大きく影響を及ぼす展開。
結論から言うと、AIエージェントを中心にして、SaaSがその手足となりユーザーへ価値を提供する構図になりそう。要するに、サービスのポジショニングとして“AIエージェントを想定しておく”戦略が重要になると確信している。
なぜこのような結論に至ったか。今回はこの点について深堀りする。
SaaS開発をしています。興味があればぜひウェイトリストに参加してください!詳細は以下の記事にて。
Butterfly 🦋📩 未読メールのストレス、ニュースレターの消化不良から読者を解放するマイクロSaaS
新しくプロダクト(マイクロSaaS)を開発するために、ChatGPTなどを使って、仕事の合間にコツコツと開発を進めています。
AIエージェントとSaaS、あるいはオンチェーンによるデジタル経済
AIエージェントの定義
開発企業ごとに微妙にニュアンスが違うAIエージェントという概念。
2023年の「The Rise and Potential of Large Language Model Based Agents」という論文を参考にすると、次のような特徴が挙げられる。
“Brain, Perception, and Action”を担う大規模言語モデルを利用し、複数ステップの反復でPlan(計画)とAction(実行)を行う
目的に合わせて自律的にタスクを組み立て、外部ツールを呼び出しながらゴールを達成する
ChatGPTが2か月で月間ユーザー1億人を超えた2023年初頭から、LLMは複数ステップの推論や動的な計画作成を得意とするよう進化し、AIエージェントの台頭を支える土台が整いつつある。
もともとRAG(Retrieval Augmented Generation)を中心に検索+回答を極める流れだったが、“自律的にタスクを段取りする”ことの価値がビジネス界で広く認識され、MicrosoftやGoogle、Amazonなどが総力を挙げて投資を加速している状況になっている。
各社の定義を総合すると「LLMが自律的にタスクを組み立て、必要なアクションを実行するシステム」と呼ぶのが妥当そう。
Googleは浅いプランニングでもエージェントと呼ぶ傾向があり、AWSは「人間が設定したゴールを自律的に達成するソフトウェア」、Microsoftは「複雑なワークフローを自動決定するコンパニオン」、OpenAIは「行動を取れるAIシステム」と位置づけている。
いずれも共通するのは“AIが状況を判断し、連続的にアクションを実行する”点です。また、エージェントは、単一のエージェントを利用するSingle Agent Architectureと複数のエージェントを利用するMulti Agent Architectureに分かれる。
シングルエージェントは、今一般的なAIエージェントを指すことも多いが、マルチエージェントは、より複雑で緻密な対応が可能なため制御が難しいが有望視されている。
ちなみに、OpenAIのサム・アルトマンはRedditのChatGPTのサブレディットで、「AIエージェントが次のブレークスルーになる」と2ヶ月前に投稿して話題になった。
Web2とWeb3のAIエージェントの交差点
Web2:SaaS中心のAIエージェント
Microsoft、Google、AWSなどが先導し、ビジネスアプリケーションの自動化が大きなテーマ。Copilot AgentsがOffice 365を横断操作したり、AgentspaceがGoogle Workspaceでエージェントを構築できるようにしたり、顧客情報を自動更新し業務をまるっと自動化する流れが加速する可能性。
ただし現状、あくまで“人間の業務を支援・代替”し、業務フローを自律的に進めることが主眼になってる。請求書発行など“ペーパーレベル”の自動化は想定されるが、直接的なお金の移動はほとんど視野に入っていないように見える(これはあくまで現在の見立て)。
Web3:暗号資産中心のAIエージェント
web3に関しては、諸事情によりこのニュースレターではあまり触れることができない。詳しくはHashHub Researchやmiinさんのブログを見ると良いかも知れない。
ブロックチェーンでは、AIエージェントがウォレットを持ち、実際にトランザクションや投資、ステーキングなどを行う動きが急速に広がる可能性がある。
Coinbase CEOブライアン・アームストロングが言及したAIエージェント向けウォレットの構想や、24時間アルファ情報を投稿するaixbt、AIエージェントプラットフォームVirtuals Protocolのように24時間稼働し利益を生み出すAIエージェントをコミュニティで所有する例も現れ、不正リスクはあれど夢のある世界となってる。
ぼくが特に注目するのは、ai16zのバックボーンにもなっているEliza Labsがスタンフォード大学と共同で研究する事例。MPC(マルチパーティ計算)技術が進めば、AIによる資産運用がより安全になり、ウォレットをAIに預けても不正操作しにくい仕組みが確立されるかもしれない。
Elizaのアーキテクチャについては、以下の記事が参考になった。実装を考えている人にはおすすめ。
https://zenn.dev/komlock_lab/articles/345ec2597b3484
両者の合流点:お金の流れまで含めて自律化するか
Web2(SaaS)では事務作業の自動化がメイン、Web3(暗号資産)では資金の自動運用がメイン。しかしこれらが合流すると、SaaSの業務データとウォレットを連携し、エージェントが24時間支払いから在庫調達、投資運用までカバーするシナリオが浮上する。
StripeやPayPalがAI対応の決済を試験中との報道もあるので、必ずしもWeb3ウォレットでなくても実現可能という見方はできるが、分散型なら非中央集権的なガバナンス・24時間いつでもでも自立駆動・オンチェーンの透明性というメリットは大きい。
最終的に両者が接合するかどうかはガバナンスや鍵管理などの技術面に左右されるかも。
2025年以降の展望:SaaS市場とAIエージェント市場
「SaaS × 人間」から「SaaS × AIエージェント」へ
ここ数年SaaSは企業DXを牽引してきたが、2023年から「AIエージェントがSaaSを裏で操作する」構図が急浮上している。
Copilot AgentsやGoogle Agentspace、AWS Agents for Bedrockなどが代表例。従来RPAではカバーしきれない例外処理やマルチステップのタスクをAIが主導する形。
2025年以降は、SaaSが人間向けUIだけでなく「AIが使うAPI」を最適化し、UIが二の次になる可能性もある。各クラウドベンダーが総力を挙げてエージェント開発プラットフォームを整備する結果、ユーザー企業は「どのベンダーのエコシステムに乗るか」を戦略的に選ばざるを得ないかもしれない。
主要クラウドの囲い込み
MicrosoftがCopilot AgentsでOfficeユーザーを、GoogleがAgentspaceでWorkspaceユーザーを、AWSがBedrockエージェントでクラウド顧客を囲い込む展開。
SalesforceもAgentforceという構想を打ち出し、CRM領域を抑えようとしているという噂。これらが進むと、企業ごとに独自のエージェント環境が構築され、SaaS市場が再定義される可能性が高い。
AIエージェント市場の膨張
AIエージェント市場は、SaaSを含めたデジタルサービスを自動操作する領域と、Web3で資金運用を自律化する領域を合体させることで一気に拡大するかもしれないという見方。Y Combinator系の投資家が「SaaS市場の10倍の規模になる」と語るなど、強気な予測が続々と出ているが、技術とガバナンスが追いつかない限りバブル化も懸念される。
ガバナンスと安全性をクリアできるか
エージェントは便利な半面、大規模な誤操作・情報漏洩を起こすリスクがある。特にWeb3ではウォレット鍵をどう安全に管理するか、SaaSではAPI権限をどう制限し監査ログをどう提供するかが最大の焦点。ここをクリアすれば広範な自動化が進み、クリアに失敗すれば大きな事故で導入停滞というシナリオもあり得る。
結論
2025年以降のSaaS市場は、人間がUIを操作するモデルからAIエージェントがAPIを使って裏で処理をこなすモデルへとシフトする可能性が高い。その流れに乗る大手クラウド各社と、Web3でウォレットを自律操作する動きがうまく合流したとき、ビジネスの24時間自動化や資金運用のノンストップ化、オンチェーンによる透明性確保といった新しい経済圏が生まれるかもしれない。
誤操作や不正アクセス、バブル的投機といったリスクはあるが、実際に投資が進み、成果が出始めている今、企業がどのタイミングでエージェント導入を決断し、どうガバナンス設計を整えるかが競争優位を左右するだろうと思う。
生き残るSaaSはエージェントにとって使いやすい機能ブロックになる。
これからのSaaSとAIエージェントがどのような進化を遂げるのか、その結末は私たちがまさに目の当たりにしている最中なのだと思う。
参考記事