MCP(Model Context Protocol)がもたらすビジネス的インパクトとは3️⃣|できるだけ定量的にMCPの可能性を検討する
実際のところ技術的に、ビジネス的にどれくらい可能性があるのか?
前回のニュースレターでは、以下のような話をしていました。
MCPを利用する現在のユースケースは、CursorのようなIDEやClaude DesktopアプリなどAIアプリを入口にしていることが多いが、実際にはクライアントやサーバーの設定には知識が必要でかんたんではない
しかし、AIエージェントがデータソースをまたいでコンテキストを維持できる世界では、AIエージェントが人間のようにカスタマーサポートや営業支援など実際の業務の内情を把握し、人間よりも効率的に処理できるような環境が訪れる可能性を示唆する
MCPのプラグイン経済圏のようなものが生まれており、自社でMCPサーバーを提供し収益化を図っている21st.devのMagic MCPというサービスの現状を解説し、大量のユーザーからのトランザクションが生まれれば新たなビジネスモデルとなる可能性を考察した
今回は、MCP連載の第3回で最終稿になります。
これまでみてきたMCPの可能性はなんとなく理解できた状態と想像しますが、実際のところ技術的に、ビジネス的にどれくらい可能性があるのか?
という疑問があるはずです。そこで、最終稿の今回は、以下のような疑問を独自に調査しました。
いま実際どれくらいのAIエージェントが存在し、今後は従来の人間ユーザー利用と比べてどの程度がAIエージェント経由の利用に変わる可能性があるのか?
将来的に既存企業のうち、どれくらいの割合がMCPサーバーを提供するようになる可能性があるのか?
MCPサーバーや関連サービスの提供で、企業はどの程度の収益増を見込めるのか?
MCP対応の有無でどのくらいビジネス上の優位性や不利が生まれるのか?
これらに疑問のある方はぜひ最後までご覧ください。
MCP(Model Context Protocol)がもたらすビジネス的インパクトとは3️⃣|できるだけ定量的にMCPの可能性を検討する
1. いま実際どれくらいのAIエージェントが存在し、今後は従来の人間ユーザー利用と比べてどの程度がAIエージェント経由の利用に変わる可能性があるのか?
現状の実用的AIエージェント数の調査
2024年時点で、生成AIを用いたエージェント(計画立案・ツール実行まで自律的に行うもの)は、1,300 人以上の専門家を対象に2024 年のAI エージェントの状況についてのLangChainの調査によれば、約51%の企業が既にAIエージェントを本番環境で利用しており、中規模企業(従業員100~2000人)ではその割合が63%に達しているそうです。
しかも、78%が「エージェントをすぐに本番環境に実装する積極的な計画を立ている」と回答したようです。
企業規模別のAIエージェントに対する課題の割合を見ると、どの規模の企業でも「パフォーマンスの質」が課題となっているようです。
Manus AIやOpenAIのAgent SDKなどが公開されたばかりということもあり、AIエージェントに対する品質の懸念は未だにあるのが現状ですが、質の向上自体は今後解消できる課題です。
したがって、この問題が解消されることでより多くの企業でもAIエージェントが使用されると考えて間違いないでしょう。
以上から、現時点で実用段階にあるAIエージェントは数多く存在しChatGPTの利用するアクティブユーザーが月間1億ユーザーいると考えると、既に数百万~数千万規模のユーザーやデバイスがそれらAIエージェントを利用していると考えられます。
将来のMCP経由利用シェア予測
AIエージェントのような存在を「機械の顧客(Machine Customor)」と表現するガートナーの調査が興味深いです。
ガートナーの2025調査では「2030 年までに機械顧客(Machine Customor)が収益の少なくとも 21% を生み出す」と報告しているようです。さらに、AIエージェントのような機械顧客は、2030 年までに 30兆ドルの購買を行なうとも大胆に予測しています。
また、**2028年には150億台のコネクテッド製品が自律的にサービスや物品を購入できるようになる**と予測され、顧客対応の現場でも2026年までに問い合わせの20%程度はAIエージェント(機械顧客)から発信されるとの予測も含まれています。
人間を介さずMCP等を通じてデータ取得や発注を行う“エージェント”が爆発的に増える見通しで、MCP経由でサービスを利用する比率は今後数年で数割規模に達し、2030年頃には全体の2割~3割超をAIエージェントが占めると見る向きが強まっています
総合すると、今後5〜10年ほどでデータやサービスへの1~3割はAIエージェント経由になるという専門家の見立てがあることになります。
これらの数字がどれだけの根拠を持つのかは正直あやしいのですが、大まかな方向性としてAIエージェントの増加、AIエージェントの自体が行なう取引の増加は既定路線と考えるべきという結論です。
2. 将来的に既存企業のうち、どれくらいの割合がMCPサーバーを提供するようになる可能性があるのか?
MCPサーバーや同等の機能を提供する企業は今後飛躍的に増え、将来的には大多数の企業が対応すると予想されます。
その論拠としては、まず生成AIを導入している企業の25%が2025年中にエージェント型AIのパイロットを開始し、2027年には50%に達するとする予測があります。これは社内利用も含みますが、半数の先進企業が2~3年以内にエージェント技術を本格導入することを意味します。
最終的には「Webサイトを持つように、MCP互換APIを持つのが当たり前」になる可能性が高いかも知れません。
先ほど紹介したガートナーの「機械顧客」に関する調査では、eコマースの出現以上に大きな変革になると指摘しており、企業はAIエージェントに自社サービスを使ってもらうための基盤整備が不可避と認識されるようになると思われます。
既存のAPIなどの情報提供サービスを展開する企業のうち、数年先には全企業の数十%が、10年以内には過半数~ほぼ全ての主要企業がMCPサーバーまたは類似のAI連携APIを提供している状況が見込まれます。
SaaSやIT企業はもちろん、金融・製造・小売といった他業界でも、自社システムをエージェント経由で利用可能にする動きが標準化していくのではないかと予想しています。
3. MCPサーバーや関連サービスの提供で、企業はどの程度の収益増を見込めるのか?
API利用料など直接収益
MCPサーバーを公開し、自社データや機能をAPI経由でエージェントに提供すれば、新たな直接収益源となります。例えばAPI経由の課金モデルが考えられ、ツール提供企業はAPIコール数に応じた料金収入を得られます。
具体的な例として、仮に1コールあたり0.1円の課金でエージェントが1日に1万回サービスを呼び出せば、1日1,000円、年間で36万円の売上が一人(もしくは一デバイス)のエージェントユーザーから得られます。エージェントが100万人に普及すれば理論上年間3600億円の追加売上となり、桁違いの収益ポテンシャルがあります。
このように極端なケースでなくとも、既存ユーザーがAIエージェントを介してサービスを利用する頻度が上がれば、それだけAPIコールやトランザクションが増え収益増につながる可能性は高いです。
追加トラフィックによるLTV向上
AIエージェント対応は顧客あたりLTV(ライフタイムバリュー)の向上にも寄与し得ます。エージェントは人間より高速・頻繁にサービスを利用できるため、一人の顧客が生涯に行う取引回数や消費額を押し上げる効果が見込めると思います。
例えば、あるユーザーが手動では月1回しか行わなかったデータ分析を、エージェントが自動で週1回行うようになれば、そのユーザー由来の利用量は4倍に増えます。
MCP対応によって新たなAPI経由収入+既存事業の利用増による収益拡大効果が見込め、その規模は中長期的に数十%の売上増や大幅なROI改善につながる可能性があると考えています。
これが、企業にとって、エージェント経由チャネルは無視できない収益ドライバーとなり得ると考える理由です。
4. MCP対応の有無でどのくらいビジネス上の優位性や不利が生まれるのか?
対外的にはMCP対応により、AIエージェントという新しい顧客層(機械顧客)を取り込めると思います。
先程のガートナーの調査によれば、全購買の約20%をエージェントが担う可能性があるという話だったので、この層を取り込める企業はそれだけ追加分の市場機会を得ることになります。
エージェントは人手の及ばない深夜でも即座にサービスを利用でき、要求に応じた最適解をツール連携で提供します。この結果、MCP対応によりサービスが24/7自動応答・実行可能なエージェントに開放され、人間を起点にしないサービス提供という収益源も見込めるかも知れません。
対内的には、MCPを業務システムを横断的に操作できれば、ルーチン業務やデータ収集の自動化など人的なリソースの削減に寄与できる可能性が高く、企業の規模が大きければ大きいほどメリットがあるように思えます。
MCP対応していないサービスは、上記のようなメリットを享受できないことに加え、MCPは将来的に標準インフラとなる可能性が高く、さながらインターネットのHTTPやスマホのアプリストアのように、主要な流通経路になるとすれば、将来形成されるであろうAIエージェント同士・サービス間のエコシステムに参加できない懸念があります。
本日は、以上です。
では、また👋
Lawrence