数日前に構想を明かしたニュースとポッドキャストをサマリーするニュースレターを企画していますが、自動化が難航しています。理由は利用規約やボット検知などの制限です。
無理やり実現できなくもないのですが、サードパーティ依存、利用規約違反などの理由で持続性がないと判断しており、マニュアル運用を検討しはじめました。
今回は、コンテンツをPoCする趣旨です。
一般的なニュース解説とは異なり、Lawrenceが個人的に「面白い」と感じたテクノロジーやビジネス関連の話題を独自の視点で選び、そのポイントを解説するスタイルでお送りします。
今週の内容
1️⃣ レックス・フリードマンの最新ポッドキャスト
2️⃣ ChatGPT Agentモード開発秘話
3️⃣ 中央集権メディアの崩壊と、個人が主導する新時代の到来
考察:なぜポッドキャストは「失われた深掘り」を取り戻すメディアなのかを考える
1️⃣ レックス・フリードマンの最新ポッドキャスト
Demis Hassabis: Future of AI, Simulating Reality, Physics and Video Games | Lex Fridman Podcast #475
[公開日: 2025/07/25]
Google DeepMindの共同創設者デミス・ハサビスが、インタビューされていました。
対談は、最先端のAI開発の現状と、それが示唆する人類の未来について深く掘り下げたものでしたが、興味深い点がいくつかあったので、以下にまとめます。
自然界(物理現象)のパターン学習の可能性とはどのようなものか?
デミスは、自然界で進化したり、自然のプロセスによって形作られたもの(生物学、化学、物理学、宇宙論、タンパク質の折りたたみ、山脈の形成、小惑星の形状など)であれば、古典的なAIによって効率的にモデル化できると述べています。これは、自然界が無作為ではなく、根底に構造を持っているためだとしています。
AIは、かつては手に負えないと思われていたタンパク質の折りたたみや囲碁のような問題にどのように取り組むことができますか?また、これは将来の科学的発見に何を意味しますか?
AlphaFoldやAlphaGoのようなAIは、高次元空間のモデルを構築し、スマートな探索を導くことで、総当たり的計算では宇宙に存在する原子の数よりも多くの時間が必要となるような問題でも、効率的な解決策を見つけることができます。これは、大規模言語モデル(LLM)と探索アルゴリズム(モンテカルロ木探索、進化的計算など)を組み合わせることで、AIが自然システムの根底にある構造を「リバースエンジニアリング」し、新しいパターン(囲碁における「37手目」のような)を発見できることを意味します。
AIはビデオゲームのような創造的分野をどのように変革し、資源配分や人間の目的について社会全体にどのような影響を与えますか?
AIは、コンテンツや物語を動的に生成し、事前にプログラムされた選択肢を超えて、プレイヤーが共同で創造するユニークな「オープンワールド」ゲームを可能にします。これは、資源の希少性といった現実世界の問題とも関連しています。AIがエネルギーや資源の問題(根本的な豊かさ)を解決すれば、人類は、現在のゼロサム思考を超えて、意味、社会組織、紛争解決に関する新たな問いに直面することになるでしょう。
ハサビスは、AIがかつては不可能とされた複雑な自然現象(タンパク質折りたたみ、流体力学)を、膨大なブルートフォース(総当たり的)計算ではなく、「探索」と「構造の学習」によって解決していると説明しています。
これは、現在のAI(古典的コンピューター上のニューラルネットワーク)の可能性が、ぼくたちが考えているよりもはるかに大きいことを示唆するものとぼくは解釈しました。
また、AIは、ゲームにおける「無限のコンテンツ生成」や「超パーソナライゼーション」だけでなく、現実世界の物理法則を理解し、リアルな映像やシミュレーション(Veo 3のように)を生成できるようになる、といいます。
エピソードでは、AI動画生成モデル「Veo 3」が、水しぶき、泥の跳ね上がり、光の反射など、流体や物質の物理的な振る舞いを驚くほどリアルに再現できることが示されました。ハサビスは、これがAIがぼくらのいう「直感的な物理学」を理解している証拠だと指摘しています。
以下は、Veo 3で作った動画です。たった5秒ほどでこのクオリティが再現できます。
数年以内には、人間すら直感的にしか理解していない世界のあり方をAIが理解し、それを踏まえたコンテンツ生成やパーソナライゼーションを実現できるのではないか?という仮説を持ちました。
また、エピソードでは「AIは囲碁で人間を凌駕する戦略(「37手目」など)を発見する一方で、ハサビスはAIが「どのような問いを立てるべきか」「何が重要で、何が美しいか」といった「研究のセンス」や「美意識」を持つことはまだ難しい」と述べています。
AIが効率的な「答え」を出す時代において、ぼくらには「質の高い問い」を立てる能力がますます求めらるのだなと確信しました。
レックス・フリードマンのポッドキャストは、教訓を得られる内容が多くよく視聴しています。問題点としては、視聴時間が長いことです(今回のエピソードは約2.5時間)。
忙しいビジネスパーソン向けに、今回のようなまとめが参考になればと思います。
2️⃣ ChatGPT Agentモード開発秘話
OpenAI Just Released ChatGPT Agent, Its Most Powerful Agent Yet
[公開日: 2025/07/23]
先週、ChatGPTからAgentモードという新しいツールが公開されました。現在、ProユーザーだけでなくPlus、Teamプランにも解放されています。
この動画では、OpenAIのIsa Fulford氏、Casey Chu氏、Edward Sun氏が、新しく開発したChatGPT Agentについて語っています。
ChatGPT Agentとは何か?
かつての「Deep Research」(テキストベースのリサーチ)と「Operator」(GUI操作)という2つのエージェントの機能を統合・発展させたものです。仮想のコンピュータ環境内で、テキストブラウザ、GUIブラウザ、ターミナル(コード実行環境)、API連携といった複数のツールをシームレスに使いこなし、状態を共有しながらタスクを実行できます。
このプロジェクトはどのようにして始まったのか?
もともと、リサーチに特化したエージェントと、ウェブサイトの操作に特化したエージェントは別々に開発されていました。しかし、ユーザーが求めるタスクの多くが「リサーチして、その結果を使って何かをする」という複合的なものであることがわかりました。そこで、両チームを統合し、それぞれの強みを組み合わせた単一のエージェントを開発することになりました。
エージェントのトレーニング方法は?
このエージェントは、強化学習(Reinforcement Learning)という手法でトレーニングされています。特定のツールの使い方を一つ一つ教え込むのではなく、多様なツールと解決すべきタスクを与え、モデル自身に最適な戦略(どのツールをどの順番で使うか)を発見させます。数千もの仮想マシンを同時に稼働させ、タスクを効率的に完了できた場合に報酬を与えることで、モデルは学習していきます。
今後の展望と課題は?
今後は、パーソナライゼーションとメモリ機能の向上が重要になります。将来的には、ユーザーが毎回指示しなくても、エージェントが自律的にユーザーのためにタスクを実行するようになることを目指しています。また、エージェントがインターネット上で現実世界に影響を与えるアクション(購入、予約など)を行えるようになるため、安全性とガードレールの設計が非常に重要です。
エピソードでは、「Operator」は視覚的な操作に強いものの長文読解が苦手で、「Deep Research」はその逆でしたが、ユーザーはこれらの統合を求めていることを開発チームはひしひしと理解していたといいます。
使用感としては、まだまだイマイチという結論でしたが、未来像としては単なる「指示待ち」のツールではなく、ユーザーの好みや文脈を理解し、能動的に動く「パートナー」のような存在になることだと思います。
一方で、その能力が高まるほど、意図しない行動を防ぐための安全対策が必要になると思います。意図しないホテルを予約してしまったり、間違った商品を購入する、といったことは避けなければいけません。
3️⃣ 中央集権メディアの崩壊と、個人が主導する新時代の到来
Marc & Ben on New Media: Podcasts, Politics & the Collapse of Trust
[公開日: 2025/07/25]
16zの共同創業者であるマーク・アンドリーセン氏とベン・ホロウィッツ氏がテクノロジーがメディアの構造、信頼性、ビジネスモデルに与えた劇的な変化について議論していました。
主要なテーマは、テクノロジーの進化、特にインターネットとソーシャルメディアの台頭が、従来のテレビや新聞といった中央集権的な「レガシーメディア」の権威とビジネスモデルをいかにして破壊し、個人が直接情報を発信する新しいメディア環境を創り出したかという点にあります。
トランプ現象は「新しいメディア」のルールを体現しているのか?
ベン・ホロウィッツ氏とマーク・アンドリーセン氏は、トランプが伝統的な政治やビジネスの世界ではなく、リアリティTVとプロレスの世界で訓練された人物であると指摘します。彼の目的は、客観的な真実を伝えることではなく、「ドラマを創り出し」「可能な限り面白く、物議を醸す」ことで注目を集めることだと話しました。
インターネットがメディアのビジネスモデルを破壊し信頼を揺るがした?
マーク・アンドリーセン氏は、かつてはニューヨーク・タイムズのような中央集権的な大手メディアが情報の門番であり、人々はそれを信頼していたと述べます。しかし、インターネット、特にCraigslistが新聞社の収益源であったクラシファイド広告市場を破壊したことで、メディアの経済的基盤が崩壊しました。
シリコンバレーとメディアの関係はいつ、どのように変化したのでしょうか?
マーク・アンドリーセン氏は、2017年頃を境に、メディアのテクノロジー業界に対する態度が劇的に変化したと語ります。それ以前は好奇心や関心を持って報じられていましたが、2016年の大統領選挙後、「Facebookがロシアにハッキングされ、トランプを当選させた」という物語が主流になり、メディアはテクノロジー業界に対して「むき出しの敵意(naked hostility)」を向けるようになったと指摘します。
この新しいメディア環境で、企業や個人はどのようにコミュニケーションを取るべきでしょうか?
ベン・ホロウィッツ氏は、伝統的なメディアを介して自社のストーリーを伝えることはもはや最適ではないと断言します。現代では、創業者自身がブログ、ポッドキャスト、ソーシャルメディアなどを通じて、オーディエンスに直接メッセージを届けることが極めて重要になっています。人々は企業の公式発表よりも、個人の「本物の声」を信頼する傾向にあります。
なぜジョー・ローガンのような長尺のポッドキャストがこれほど人気を博しているのでしょうか?
両氏は、テレビのような旧来のメディアが時間や広告の制約から会話を途中で打ち切るのに対し、ポッドキャストは3時間にも及ぶ深い議論を可能にすると指摘します。これらのホストはジャーナリストではなく、一般の視聴者と同じ目線で物事を学ぼうとする姿勢が、高い信頼性と人気につながっています。
トランプ現象とは、大統領となるまでのストーリーを指しているとおもわれますが、現代のメディア環境が、客観性や事実よりも、エンターテイメント性や感情的なエンゲージメントを重視する傾向にあるというのは直感的に理解できることです。
アテンションを得ることがSNSが成熟した時代において、伝統的な権威よりも強力な影響力を持つようになったということを浮き彫りにしてます。
動画の中で、両氏はポッドキャストが旧来のメディアでは失われてしまった「深い議論」を可能にする新しい形であると強調しています。
その要因としては、以下の3つだと分析できます。
フォーマットの制約からの解放
「専門家ジャーナリスト」ではなく「学びたい一般人」としてのホスト
「本物の会話」への渇望
1.フォーマットの制約からの解放
テレビニュースや従来のインタビュー番組は、広告枠のために厳密な時間的制約があります。テレビでは議論が面白くなってきたまさにその瞬間に、『残念ですがお時間です』と打ち切られてしまうと指摘します。
一方で、ジョー・ローガンやレックス・フリードマンといったポッドキャストは、3時間以上にも及ぶ長尺の会話を配信します。これにより、1つのテーマについて表面的なやり取りで終わらせることなく、前提から結論に至るまでの文脈やニュアンスを余すことなく探求することが可能です。これは、従来のメディアでは構造的に不可能だった「深掘り」そのものです。
2.「専門家ジャーナリスト」ではなく「学びたい一般人」としてのホスト
ベン・ホロウィッツ氏は、ポッドキャストのホストの多くが、伝統的なジャーナリズムの訓練を受けていないコメディアンやスポーツ解説者である点に注目しています。
彼らは、特定の政治的議題や「揚げ足取り(Gotcha)」の質問を目的とするのではなく、純粋な好奇心から「学びたい」という姿勢でゲストに質問を投げかけます。
この姿勢が、視聴者に「自分の代わりに聞いてくれている」という共感と信頼感を生み出します。専門家ではないからこそ、視聴者が抱く素朴な疑問を代弁でき、専門用語で煙に巻くのではなく、本質的な理解へと導くことができるのです。
3.「本物の会話」への渇望
両氏は、現代の人々が、編集され、特定の意図を持って構成されたメディアコンテンツよりも、フィルターのかかっていない「本物の会話(a real conversation)」に飢えていると語っています。
長時間のポッドキャストでは、準備された応答だけでなく、その場の思考や、時には沈黙、言い淀みまで含めて配信されます。この「生の感覚」こそが、視聴者に高い信頼性と「真正性(authenticity)」を感じさせ、多くの人々が短い動画コンテンツだけでなく、長時間の深い議論に没頭する理由になるだと言ってます。
考察:なぜポッドキャストは「失われた深掘り」を取り戻すメディアなのかを考える
とはいえ、人は時間がないですし、感情的な生き物です。
そうした人間の特性を前提にすると、長尺ポッドキャストがメジャーストリームとなるようなことは難しいのでは?
と考えるのも自然です。
現代人が時間に追われ、感情的な刺激に惹かれやすいというのは、メディア消費の大きなトレンドだと思います。TikTokやYouTubeショートといった短尺コンテンツの爆発的な人気は、その何よりの証拠ですね。
しかし、この短尺化のトレンドと同時に、長尺コンテンツ、特にポッドキャストへの深い需要が主流(メジャーストリーム)の一部として確立されつつあるのは無視できません。
長尺ポッドキャストがメジャーストリームになることは「難しい」どころか、すでに特定の形でメジャーストリーム化しているというのがぼくの考えです。
◆「時間がない」のではなく「使い方」が変わった:「ながら聴き」文化の浸透
人々は確かに多忙ですが、長尺ポッドキャストはその消費方法において、テレビや映画とは根本的に異なります。それは「画面に集中する時間」を必要としません。
ポッドキャスト聴取者の大半は、通勤中、運動中、家事をしながらといった「ながら聴き」をしています。 これは、他の活動と並行してコンテンツを消費できるため、「時間がない」という制約を乗り越えやすいことを意味します。3時間のポッドキャストも、数日間の通勤時間で分割して聴くことが可能です。
画面を占有する動画とは異なり、音声コンテンツは人々の「耳の可処分時間」に入り込むことができます。これは非常に大きな市場であり、長尺であっても生活に溶け込ませることができるのです。
◆感情的な生き物だからこそ「深い信頼関係」を求める
人間が感情的な生き物であることは、短尺コンテンツだけでなく、長尺ポッドキャストの成功を後押ししています。短時間で得られる刺激的な感情とは別に、人間は信頼できる人物との深い関係性を求める本能を持っているはずです。
ポッドキャスト、特にジョー・ローガンのような長寿番組の成功は、「パラソーシャル関係(あたかも親しい友人のように感じる関係)」という心理効果によって説明されることがよくあります。 数百時間にわたって一人のホストの声を聞き続けることで、リスナーは商業メディアにはない強い信頼感と親密さを抱くようになります。これは、非常に強力な感情的な結びつきです。
炎上やスキャンダルを狙うテレビの短いインタビューとは対照的に、長尺の対話はホストとゲストの人間性や思考の深さを明らかにします。この「真正性(authenticity)」がリスナーの感情に深く響き、「この人の言うことなら信じられる」という強力なロイヤリティを形成する、というのがぼくの仮説です。
メジャーストリームの定義を「国民の大多数が消費するもの」と限定するならば、長尺ポッドキャストはまだその域に達していないかもしれません。しかし、「社会に大きな文化的・経済的影響を与える存在」と定義するならば、すでにメジャーストリームです。
ジョー・ローガンがSpotifyと結んだ契約は2億5000万ドル以上と報じられています。 これは一個人のコンテンツとしては、ハリウッド映画に匹敵する、あるいはそれ以上の経済規模です。また、彼のエピソード一つが、大統領選挙の候補者選びや公衆衛生に関する国家的な議論の方向性を左右するほどの影響力を持つことは、広く認識されています。
結論
現代社会では短く感情的なコンテンツへの需要が非常に高いです。しかしそれは、メディア消費の一側面に過ぎません。
メディアの消費は、二極化していると考えるのが最も的確だと思います。
短尺のショート動画をジャンクフードのように楽しむか、長尺の信頼できるポッドキャストからフルコース料理のような深いコンテンツを選ぶか。
ここで、ポッドキャストが「失われた深掘り」を取り戻すメディアとしての真価を発揮します。
従来のメディアが商業的な制約から失ってしまった「時間」と「文脈」を、長尺ポッドキャストは提供します。フィルターのかかっていない長時間の対話は、断片的なニュースでは決して得られない、物事の複雑さや思考のプロセスそのものをリスナーに届けるのです。
したがって、「長尺ポッドキャストがメジャーストリームになるのは難しい」という見方は、一面的な捉え方と言えるでしょう。むしろ、情報過多の時代だからこそ、信頼できる語り手から時間をかけて物事の本質を学びたいという需要が高まっており、ポッドキャストはその受け皿として、従来のテレビや新聞とは全く異なる形で「知的な主流」を形成しつつあります。
これこそが、ポッドキャストが「失われた深掘り」を取り戻すメディアと呼ばれる所以だと思うのです。
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今回は以上です。
では、また👋
Lawrence