MCP(Model Context Protocol)がもたらすビジネス的インパクトとは 1️⃣|Mastraがオール・インするOSS標準プロトコル
生成AIによる生産性向上をもう一段階引き上げ、新たな市場を作る可能性がある技術
AI業界に新しい革新を起こすであろうMCP(Model Context Protocol)は、今後の業界動向を理解する上で必須で理解しておくべき技術で、今急速に注目を集め始めています。
ぼくがこのように確信したのは、先日AIエージェント向けフレームワークを開発するMastraが、「MCPにオール・インする」という発表を知り、その記事を読んでからリサーチを行ったためです。
日本でも有名な中島聡さんの週刊Life is beautifulにおいても、
MCPは、LLMの"function call"の仕組みを進化させ汎用化させた素晴らしい仕組みであり、MCPが(もしくは、MCPをさらに進化させたもの)が、業界のデファクトスタンダードになる
といった発言をされていたので、より確信を強くしました。
過去を振り返ると、ウェブ開発の勃興期やスマホアプリの普及期、さらに大手プラットフォームがAPIを公開してマネタイズ機会が増えた時期など、新しいインフラや技術が普及するたびに、大きな市場が生まれる事例を数多く目にしてきました。
こうした数百~数千億円規模の市場が拡大してきた流れを踏まえると、今後は生成AIによって主導されるテクノロジー業界でも、同等クラスの新しい市場が登場する可能性が十分に考えられます。その背後の中核技術として、次世代の波をけん引するのがMCPだと考えています。
そもそもMCPとはなにか?具体的にどのようなインパクトをなぜもたらすと考えられるのか?
それらを今から理解しておくことは、このニュースレターの主題である生成AIの技術・市場動向を理解すること、ビジネス・投資的な優位性を勝ち得るために非常に重要な点だと思います。
この記事でカバーする範囲は以下の内容です。
MCPとは何か
MCPが解決する課題、技術がもたらす付加価値の重要性は何か
Mastra社がMCPにオールインした背景
少し長く文面を割いてしっかり解説するため、連載になると思います。
次回以降では、
AI・IT業界に与える影響
MCP普及の広がりと将来展望
既存企業の競争優位性向上
市場規模と収益構造の変化
アプリケーションからAIエージェント中心というパラダイム・シフト
考察(本当に市場が立ち上がるのか?収益として安定した基盤になり得るか?など)
を書く予定です(内容は変わる可能性があります)。ぜひ、このニュースレターを購読していただけるととても嬉しいです。
今回は、試験的にグラッフィックレコーディング風の図解(Claude 3.7 sonnet使用)を加えてみました。読者の反応がよければ、積極的に利用し今後も継続したいと思います。ぜひ、いいねやコメントをいただけるととても嬉しいです。
MCP(Model Context Protocol)がもたらすビジネス的インパクトとは 1️⃣|Mastraがオール・インするOSS標準プロトコル
MCPとは何か
MCPとは、大規模言語モデル(LLM)を搭載したAIアシスタント等を外部のデータソースやツールと接続するためのオープンソースの標準プロトコルです。
かんたんにいうと、MCPはLLMと外部システムとの相互接続方法を標準化することで、AIがリアルタイムに必要な情報へ安全にアクセスできる土台を提供するものです。
Claudeを開発するAnthropic社が2024年11月にオープンソースとして発表した新しい業界標準であり、LLMやAIアプリが「データが存在する場所」(コンテンツリポジトリ、業務ツール、開発環境など)へのアクセスを統一的な方法で行えるように設計されています。
MCPはHTTPのような通信規約に近く、LangChainのようなフレームワークや個別のプラグインではなく、汎用インタフェースを提供するものです。
そのため“AIアプリケーション向けのUSB-Cポート”に例えられ、特定のベンダーに依存しない共通の接続口として機能します。これによりAIモデルが誰が提供したどのデータソースであってもシームレスに接続できる基盤を作り、業界全体で相互運用性の高いエコシステムを実現することが可能です。
MCPの仕組みはクライアント-サーバー型アーキテクチャとして定義されています。具体的に配下のようなコンポーネントで構成されます。
MCPホスト(Host):AIモデルを統合したアプリケーション本体です。例えばAnthropicのClaudeデスクトップ版、各種IDE、チャットボットなど、外部データにアクセスしたいAI搭載アプリがホストに該当します
MCPクライアント(Client):ホスト内部で動作し、ホストと各MCPサーバーを1対1で接続する役割を果たすコンポーネントです。ホストが複数のサーバーと同時に通信できるように、接続ごとにクライアントが用意されます。
MCPサーバー(Server):外部のデータソースや機能へのアクセスを標準化された形式で提供する軽量なプログラムです。。各MCPサーバーは特定のサービスやデータベース等に対応し、そのAPIやデータをMCP経由で開示します。
ローカルデータソース:ユーザーのローカル環境にあるファイル、データベース、サービスなどで、MCPサーバーが安全にアクセス可能な情報源です。例としてPC内のドキュメントや社内DBが挙げられます。
リモートサービス:インターネット経由で利用できる外部サービスです(例:外部のWeb APIやクラウドサービス)。MCPサーバーはこれらリモートサービスにも接続し、必要なデータや機能を提供できます。
このように、開発者は自分のシステム内のデータをMCPサーバーとして公開するか、あるいはMCPクライアント対応のAIアプリケーションを実装することで、自社データや外部ツールとAIモデルの間に双方向の接続を構築できます。MCPに準拠したクライアントとサーバー間では、誰が実装したものであっても共通ルールに従って通信が行われるため、プラットフォームの違いを超えてデータ連携やツール操作が可能になります。
MCPが解決する課題、技術がもたらす付加価値の重要性は何か
MCPが登場した背景には、従来のアプリやデータとのAI統合における非効率さや断片化の問題があります。
断片化した生成AIと利用可能なデータ資源
高度なAIモデルであっても学習済みデータ以外の情報には直接アクセスできず、企業内データや最新のウェブ情報との連携には毎回個別のカスタム統合が必要で、このため情報ソースごとにコネクタを開発・維持する負担が大きく、システム間のデータ連携がスケールしにくい状況でした。
複数の社内システムやクラウドサービスとAIを繋げたい場合、各システム向けに一つ一つ専用のインタフェース実装が求められ、AI導入のコストと時間が増大する原因となっていたのです。
ChatGPTでドキュメントのたたき台を作る→Notionでドキュメントにコピペ、社内CRMの情報をコピー→ChatGPTでコピペして分析させる、などアプリ間をまたいだ作業が必要で、使用頻度が高い人ほど煩わしい感覚は理解できると思います。
AIエージェントのボトルネック解消
また、AIエージェントに外部ツールを使わせる場合も類似の問題がありました。エージェント用ツール統合のエコシステムは混乱状態で、開発者でさえ「どの実装が最適かわからない」ほど断片化していたといいます。
ツールの検索・インストール・設定方法も統一されておらず、エージェント開発者にとって大きな悩みの種となっていました。AIと外部システムの統合全般において「サイロ化されたデータ」「非標準な接続」「断片化した実装」が障壁になっていたのです。
AIシステムを開発するエンジニアにとっては、チャットボットや自動化エージェントなど、AI搭載アプリに外部機能を組み込みたい開発者は、MCPによって一貫した方法で様々なツールを利用可能になり、ツールごとに異なる実装を書く必要が減り、開発効率向上が期待できます。
さらに、企業のIT部門・データ担当自社のデータベースや業務アプリをAIに活用させたい企業にとって、MCP対応のコネクタを構築すれば社内データとAIを安全に連携でき、カスタム開発より低コストで、既存資産から価値を引き出す道が開けます。
営業担当者がチャットAIに社内CRMデータを問い合わせてサクッと分析結果の要点をまとめさせたり、開発者がコードエディタ上でAIにプロジェクトのリポジトリを検索させたりといったことがよりスムーズになり、生成AIによってもたらされた生産性向上をもう一段階引き上げるができます。
以上のように、MCPはAIと他システムの橋渡しに伴う開発上・運用上のボトルネックを解消し、多様なステークホルダーに利益をもたらすことになります。
具体的な付加価値としては、
統合の簡素化とコストが削減できる
リアルタイムで最新・関連性の高い情報取得できる
コンテキスト拡張による業務効率化ができる
ベンダーロックインの回避と柔軟性がある
セキュリティとデータ主権の両立ができる
エコシステムの創出と互換性が期待できる
といったことがあげられます。
以上を整理した図解を掲載します。
個人的な意見として、MCPはRetrieval-Augmented Generation(RAG)の流れを汲み、必要な文脈情報をその都度LLMに供給するアプローチを取っており、エージェントが広範な知識を前提にタスクを実行できるようになるインパクトは大きいと考えています。
さらにリアルタイムの世界の情報を把握し、人間と同等レベルで関連性の高い情報にアクセス可能になることは、AGI(汎用人工知能)が誕生する前提にもなると考えています。
このような付加価値を踏まえると、MCPはAI時代のパラダイムシフトを加速させる重要な技術だと理解できます。
そんなMCPに、「オール・イン」することを宣言したMastraの戦略の背景や目的を以下では詳しく分析することで、今後MCPがもたらすAI業界、ひいてはIT業界に与える影響を考える布石としたいです。
Mastra社がMCPにオールインした背景
Mastra社(TypeScriptのAIエージェントフレームワークを開発)は、2025年に入り自社戦略の中核としてMCPにオール・インすることを明言しました。
その背景には、前述のAIエージェント向けツール統合の難しさがあります。Mastraのチームは「日々エージェント開発に取り組む中で、ツールエコシステムの分断や品質不透明さに直面し続けてきた」と述べています。
実際、「エージェント用カレンダー連携を調べると玉石混交の実装が乱立しており、最適解がわからない」といった状況で、開発者にとってもフラストレーションが大きかったようです。
MastraがMCPに「オールイン」する決断をした主な理由は以下に集約できます。
MCPはAnthropic主導とはいえOSSコミュニティと協力して策定されたオープン標準であり、閉域的な仕様に比べ持続可能だと評価。Mastra社は他の競合アプローチ(Wildcard社のAgents.jsonやComposio社独自の統合仕様など)も検討しましたが、それらと比較しても業界横断的なプロトコルであるMCPの優位性が明確だとしています
MCPは既に複数の有力企業で採用が始まっており、将来性が示唆されていました。Mastra社がブログで言及したところでは、ZedやReplit、Codeium(Windsurf)、Sourcegraph、Cursor、Block(Square)といった企業・プロジェクトが既にMCPをプロダクション環境で実装していること
Mastraは自社のエージェントフレームワークを高機能化する上で、MCPの持つ技術的メリット(前述の付加価値)を重視しました。特に他標準との互換性に着目しており、MCPのアーキテクチャなら他方式とも橋渡しが可能なため(実際ComposioがMCPブリッジを実証)、将来別の標準に揺れ動いたとしてもMCP実装がハブとなって柔軟に対応できると見込んでいます
具体的な戦略として、Mastraはまず自社フレームワークからMCPエコシステムを使いやすくする提案を行いました。ブログ記事「Framework-Friendly MCP」では、MCPツールの発見・設定・接続を統一的に行うためのレジストリクライアントの試作を紹介しています。
これは、MCP対応ツールのカタログ(レジストリ)に接続し利用可能なサーバー一覧や設定スキーマを取得する仕組みで、将来的にIDE上で利用可能サーバーを補完提示したり、GUIで設定入力・バリデーションしたりできるようにするものです。
このようなフレームワークレベルの抽象化により、開発者は煩雑な設定に悩まされずMCPツールを活用できるようになります。
Mastraは、既存のMCPサーバーに即時対応する機能も提供しています。MastraMCPClient
というAPIを通じ、レジストリ整備前でも任意のMCPサーバーに接続できるようにし、ユーザーはMCPエコシステムの恩恵を待つことなく享受でき、自社環境に合わせたツール連携をすぐ試せます。
事実、Mastra社自身が自社ドキュメントを提供するMCPサーバーを構築し、CursorやWindsurfなどMCP対応IDEでMastraのドキュメント検索エージェントを利用できるようにして自社知識ベースへのMCP実装というケーススタディを示した形であり、エコシステム拡大の実践にもなっています。
まとめ
MCPは次世代の「開発プラットフォーム」として巨大市場を生む可能性がある。MCPがAI時代の標準インフラとなることで、新たな市場が形成される可能性が高い。
MCPはAIとツール・データの統合を劇的に効率化する。オープンソースで標準化されたプロトコルに統一し、AIがリアルタイムで外部リソースに安全にアクセスできるようにする。
Mastra社の「MCPオールイン」は、AIを取り巻くビジネスの業界の転換点となる。すでにZed、Replit、Codeium、Sourcegraphなどの企業もMCPを採用し、「AIが使える外部機能を増やす」エコシステムの形成が加速している。今後、この流れが広がれば、AIアプリの開発・利用の在り方が根本から変わる可能性がある。
次回以降では、
AI・IT業界に与える影響
MCP普及の広がりと将来展望
既存企業の競争優位性向上
市場規模と収益構造の変化
アプリケーションからAIエージェント中心というパラダイム・シフト
考察(本当に市場が立ち上がるのか?収益として安定した基盤になり得るか?など)
を書く予定です(内容は変わる可能性があります)。ぜひ、このニュースレターを購読していただけるととても嬉しいです。
本日は、以上です。
では、また👋
Lawrence