LLMなどの高度なAIが普及するにつれて、あらゆる産業でAIを活用する動きが加速しています。しかし、AIは多大な演算資源を必要とし、特にトレーニング(学習)と推論(実行)の両段階で大きな電力を消費します。
たとえば暗号資産のマイニングによる電力消費問題に近いものが、AIでも発生し得るのではないかと危惧する声は以前からありました。
日頃から、果たしてこの急増する需要をまかなうだけのエネルギーは本当に足りるのか、という疑問を抱いていました。
そんななか、グローバルマーケットリサーチで、興味深い記事を読みました。著名投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、AIが膨大なエネルギーを必要とするなら「原発関連銘柄」と「ウラン」に注目すべきだと語っていたのです。
AIが今後も大幅に成長するなら、世界的な電力需要は加速的に増大し、化石燃料や再生エネルギーだけでは対応しきれない可能性があるから、とのことです。
一方で、私個人としては「足りないと言われる根拠の部分がいまいちピンとこないが、とはいえ過剰な需要が集中すれば『不足』という形で問題が顕在化するのではないか」という感覚を抱いています。
そこで、今日はグローバルマーケットリサーチの記事を参考に、「AIが爆発的に普及したとき、本当にエネルギーは足りるのか?」という問いについて考えたいと思います。
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新しくプロダクト(マイクロSaaS)を開発するために、ChatGPTなどを使って、仕事の合間にコツコツと開発を進めています。
AIへの投資と普及は、原子力エネルギーへの需要を高めるか?
「AIが必要とする膨大なエネルギー」は本当か?
ChatGPTのような会話型AI、画像生成モデルや動画生成モデルなど、必要となる学習データの膨大さと学習回数の多さが特徴です。
GPUやTPUなど高性能チップを使った大規模計算を何度も繰り返すことで、より高精度な推論能力を獲得していくものと考えられています。
これについては、DeepSeekのように高性能なGPUでなくても高い性能のLLMを開発できることが提唱され、電力の消費とトレーニングのエビデンスが得られていない状況です。
将来のAI需要に比例し、膨大なエネルギーが本当に必要なのかどうかは、DeepSeekの一件でやや不透明になった感を持っています。
とはいえ、直感的には性能の高いマシン(GPU)をフル回転させれば、さらに高性能なLLMが誕生する、という理屈に現状ではあまり違和感は感じていません。
暗号資産のマイニングと同様、AIが広く普及するほど電力コストが膨らむリスクがあり、近い将来には「AIを動かすための電力が足りない」「電力価格が高騰してAIの導入コストが跳ね上がる」といった懸念を指摘する声もあるそうです。
ガンドラック氏の示唆:原子力とウラン
こうしたAIの拡大がエネルギー不足の引き金になるかもしれない。そう指摘するガンドラック氏は、だからこそ「原子力関連銘柄」や「ウラン」への投資に妙味があると語ります。参考記事の中でガンドラック氏は、次のような趣旨の発言をしています。
AIは膨大なエネルギーを必要とする。そんなエネルギーが必要となったときに原子力以外では賄いきれない。
原子力発電には、CO₂排出量が少ないという強みがあります。いわゆる脱炭素を進めるうえでも有望な選択肢の一つとされ、特にロシアのウクライナ侵攻以降、ヨーロッパ各国が化石燃料以外の安定電源を模索する過程で、再評価されている現実があります。たとえばドイツがかつて進めた「脱原発」はウクライナ侵攻後に後悔の声が出るほどで、ヨーロッパでは原子力回帰の動きも見られます。
さらに近年では、小型モジュール炉(SMR) という技術も注目を集めています。SMRは従来型よりもサイズが小さい原子炉で、送電が難しい地域にも設置しやすい利点がある反面、安全性や核物質の規制の問題をクリアできるかが課題です。小規模の分散型発電として原子力を使う将来像が実現すれば、大量の電力を必要とするAIを安定的に支える新たな選択肢にもなり得ます。
ロシアのウクライナ侵攻を機に、ヨーロッパ各国はロシア産エネルギーへの依存リスクを痛感しました。一部では「脱原発」を進めてきた国々がエネルギー不足に陥り、原子力回帰の必要性が再浮上。さらに、脱炭素の視点でも原子力はCO₂排出が少ないため、今また見直されているという流れがあります。
ウラン価格と投資の注目点
ガンドラック氏が言及しているもう一つのポイントは「ウラン」です。原子力発電の燃料であるウランは、福島第一原発事故以降、長らく価格が低迷していた歴史があります。しかしコロナ後のエネルギー危機や、ウクライナ侵攻をきっかけとしたロシア・ウクライナ情勢を受け、原子力が再評価され始めたことでウラン価格も上昇傾向を示していました。
ガンドラック氏は、たとえばポートフォリオの5%程度をウラン関連の資産に投じるといった投資戦略も面白いのではないか、と提案しています。実際、ウラン採掘企業をまとめたETFなども存在し、投資家はこれらのETFを通じてウラン関連に間接的に投資が可能です。
もっとも、ウラン価格や原子力関連株は、AIだけでなく世界的な政策や規制動向(とりわけ安全保障や環境規制)にも大きく左右されます。AIの成長がウラン需要を底支えする要因になるという論理は「即効性がある」かというと疑問も残ります。しかし長期的に見れば、エネルギー全般への需要が増える中で、原子力が主要な選択肢となる可能性は十分にあるでしょう。
本当にエネルギーは足りないのか?
では実際のところ、AIの普及によって「本当にエネルギーは足りなくなる」のかどうか。ここはまだ意見が分かれる部分です。
再生可能エネルギーの進化
風力・太陽光といった再生可能エネルギーも急速にコストが低下し、導入が進みつつあります。蓄電技術の進歩がこれに伴えば、クリーンかつ豊富なエネルギーを比較的安価に供給できる社会が訪れる可能性も十分あります。
エネルギー効率化の進歩
半導体設計は年々進化し、消費電力あたりの処理能力(性能/W)が向上しています。AIのアルゴリズム面でも省電力化や推論効率化の研究が進むことで、同じ計算量をこなすのに必要な電力が減り続けるかもしれません。
小型モジュール炉(SMR)の普及
SMRの規制ハードルが下がれば、世界各地の分散型電源として原子力を導入しやすくなります。もし政策面で原発推進を後押しする動きが強まれば、AIが将来必要とする大規模な電力を支える「裏方」として原子力が注目を浴びることが考えられます。
政策・地政学リスク
ロシアのウクライナ侵攻のような突発的な地政学リスクが再び起きれば、エネルギー価格は乱高下します。化石燃料は輸送網の制約があり、再エネは天候や自然条件に左右される面があるため、安定的なベースロード電源となり得る原子力の重要性がクローズアップされる展開が十分に想定されます。
このように複合的な要素が絡むため、「AIによるエネルギー需要の急騰はどこまで深刻になるのか?」という問いに対して、簡単に「足りなくなる」とは断言できない側面があります。一方で、AIの発展と普及ペースが予想以上に早まり、かつ再エネや化石燃料、原子力のインフラ整備が追いつかなければ、エネルギー不足が社会問題化するシナリオもあり得ます。
まとめ:投資と社会的影響を考える
ここまで、AIの拡大に伴う電力需要の急増や、それに対応する原子力発電やウラン投資の可能性を中心に論じてきました。最後に整理すると、次のようなポイントが挙げられます。
AIは暗号資産のマイニング並み、もしくはそれ以上に大きな電力消費を必要とする可能性がある。
特に大規模なモデルを運用し続けるためには相応の電力が必要となり、計算資源への投資が欠かせません。
原子力はCO₂排出量が少ないベースロード電源であり、脱炭素やエネルギー安全保障の観点からも再評価されている。
ドイツのように脱原発を進めた国がエネルギー不足で苦境に陥る例もあり、原子力をどう位置づけるかは重要な政策課題です。
小型モジュール炉(SMR)の普及は、従来の巨大原子炉とは違う形でエネルギー分散化の手段となる可能性がある。
SMRが政治的・規制的に容認されるなら、送電インフラが弱い地域でのAI活用にも弾みがつくかもしれません。
ガンドラック氏のような投資家は、AIの普及=エネルギー需要の増大を前提として原子力関連株やウラン市場を注視している。
長期の視点で見れば、株式ポートフォリオの一部をエネルギー関連(特に原子力やウラン)に振り向ける戦略は一定の妥当性を持つと考えている。
同時に、再エネや省エネ技術の進化によって、急激なエネルギー不足が起こらずに済む可能性もある。
筆者個人としては、「AIが成長しすぎてエネルギーがまるで足りなくなる」とは限らないものの、「万が一そのリスクが顕在化した場合、何が代替エネルギーを担うのか」という視点を持つことは極めて重要だと考えています。
現在のAIブームがもたらす恩恵に酔いしれるだけでなく、インフラ面の整備が遅れた場合のリスクや、原子力が再び脚光を浴びる可能性など、さまざまな視点から検討することが必要でしょう。
短期的な株価変動は「DeepSeekショック」のように過剰な反応となることが多いですが、長期的に見ればAIとエネルギーの関係は、私たちの生活だけでなく地政学的・経済的なバランスを大きく左右するテーマになりそうです。
今後の政策や技術革新の動向に注目しながら、AIを巡る投資判断や社会インフラの在り方を考えていくべきではないでしょうか。
今回は以上です。
では、また👋